1月29日、金曜日の午後7時30分からという異例に遅い時間の開始となったトヨタ、ダイハツの記者会見。周知のようにトヨタがダイハツの株を100%取得し、完全子会社にするというものだ。この子会社化により、今後の両社による新車開発はどうなっていくのだろうか。
今回の子会社化の狙いの中に、ダイハツが得意としてきたインドネシアやマレーシアにおける今後の新車開発の原資の集中をトヨタがバックアップするということもあるだろう。
急成長するインドネシアでダイハツと合弁のアストラダイハツモーターは14年実績で、120万台規模のマーケットでシェア15%を獲得し、同様にマレーシアのプロドゥアは66万台規模のマーケットでシェア30%を誇る。そのインドネシアでの低迷もあるし、国内で昨年スズキから軽自動車トップの地位を奪取したとはいえ、軽自動車税増税の影響から、減収減産に追い込まれたこともあり、今回の動きがあった。小型車へのシフトを狙えそうなスズキに対しダイハツに対し、ダイハツは独自開発の登録者を持っていない。
過去シャレードなどのヒット車はあったが、その後、アプローズ、バイザー、YRVなど厳しい状況が続いてきた。そうした中で、トヨタは軽自動車から発展した小型車だけでなく、ダイハツの軽自動車技術をいかしたグローバルで使える本格的な小型車づくりを今後推進していくと見られている。
そして、4月11日に発表される、次期パッソ/ブーン以降、新しい軽自動車、コンパクトカーの開発が両社一体となって本格的にスタートしていくことになるはずだ。
既に新型パッソ/ブーンについては完成していて、販売マニュアルを入手。新型はこれまで1Lと1.3Lだったエンジンを1Lに一本化する事、そして安全性面で低速域衝突回避支援システム、スマートアシストⅡを採用するなど、大きく進化する予定だ。さらに、サイズは現行モデルよりも10mm低くなっても室内長は145mm長くなるなど実用性の向上も見逃せない。当然、17年の自動車取得税廃止後の新税では免除の対象となる。
新型パッソのようなダイハツ開発のコンパクトカーに対し、今後はトヨタが主体となって取り組むことになる。もちろん、ダイハツが持っている技術を投入しながらということになるが、新車戦略や販売戦略、今後の棲み分けなどについて、トータルでトヨタが主導権を握ることになる。そうした流れの中で登場するのが、秋から年末にかけて登場するトヨタのコンパクトミニバンだ。
bB後継者は超実用社員大転換
トヨタには現在、1.5Lクラスのコンパクトミニバンは大ヒットとなった7人乗りシエンタ、それにミニバンとまではいかないまでもスペースユーティリティにすぐれるポルテ/スペイドがある。これに加えラクティスのミニバン的モデルだ。
こうしたラインナップに加え、もっとも小さいミニバンとして1Lクラスのミニバンを用意する。企画はトヨタ主体で行ってきたが、開発はダイハツが担当。生産もダイハツが行う。2008-2012年まであったパッソセッテ/ブーンルミナスのような存在となる。
実質的にはbBの後継車だが、ダイハツブランドについては現時点では不明だ。bB時代、ダイハツブランド用としてクーもあったが、現在はbBのみ。それも台数的には低迷。これまでヤング層を掘り起こすために遊びの要素が強かったが、今後は実用性を最大限の売りにする見込みだ。
ライバルはスズキソリオ。ソリオ1.2Lながら、ハイブリッド車の設定などコンパクトミニバンとして月販4000台近く売る人気車に成長した。トヨタ、ダイハツ軍団としても放っておけないジャンルとなっている。
そこでこのbB後継とも言える新型ミニバンを導入することになった。エンジンはパッソと同じ1KR-FE、996cc。これをターボ化し、オリジナル-69psから90ps程度まで高め、トルクも9.4kgmから15.0kgmあたりまで上げ、重量増に対応する予定という。
この1Lターボはトヨタでは初となり、スズキのハイブリッドに対し、当面はターボで対抗していく。このあたりのターボ技術はダイハツの軽自動車用のノウハウで、ソリオハイブリッドのJC08モード27.8km/Lにどこまで迫れるかが注目される。
デビューは今年の秋が予定されるが、多少遅れる可能性もあるという。価格についてはNAが130万円程度、ターボでも150万円程度と軽自動車並の価格になる可能性もある。これだけではない。トヨタ、ダイハツにはさらに隠し玉がありそうだ。
ブーンX4のような過激なモデルも
今回の子会社化で予想されるのはダイハツブランドがどこまで残るかだ。これまでどおり、軽自動車は当然としてコンパクトカーまでは残す可能性が高く、ダイハツのオリジナル商品もある程度は残っていく。そして、その中には、かつてモータースポーツベース車だったブーンのX4(クロスフォー)のような特化した商品も登場してくる可能性もある。
その理由の一つは現在の入門用TRDラリーへのヴィッツでの参加台数が格段に増えている点。豊田章男社長自らも参戦する入門用ラリーだが、かつて、このクラスではブーンX4が、入門用から全日本クラスのラリー車として活躍していた。ヴィッツターボなどでラリーに参戦するファンも多いが、コンパクトなブーンクラスにモータースポーツベース車を投入することでダイハツブランドをアピールしていくことはありえる。
現行モデルのX4の廃止がトヨタの意向だったのか、あるいはダイハツの判断だったのか、と言えばダイハツ側の自主的に動きがあったのはわかる。数の出ないX4などにコストはかけられない、ということだろうが、これからはどうか?
ダイハツが担当することになるコンパクトカーの魅力の向上のため、ブーンX4などの特化したモデルの再投入は十分ありえる。エンジンはターボであればどうにでもできる。レギュレーションに合致させるために排気量を下げる必要もあるが、このクラスなら、1Lターボのままで上のクラスに参戦しても戦闘力はありそうだ。
来年からトヨタはWRCに復帰することになるが、そのベース車となるヴィッツの下に入るスポーツモデルをパッソ/ブーン系に設けることで、よりモータースポーツ人口を増やすことも視野に入れる。何しろモータースポーツ車はコンパクトな方が良いのだ。
トヨタはダイハツの子会社化で、たとえばこうした少ロットのスポーツモデルや、すでに公開しているスモールFR、S-FRのような新しい時代のスポーツモデルをダイハツの少量生産技術、例えばコペンのような作り方でスタートさせようと考えている可能性もある。S-FRはグローバルでの展開を予定している為、少し違うかもしれないが、今後、トヨタ、ダイハツのコンパクトカーが激変するのを楽しみにしていこう。