東日本大震災以来、4年ぶりの500万台割れとなった日本の新車販売台数。中でも成長していた軽自動車の落ち込みが大きかった。昨年の軽自動車税増税に加え、今年は、三菱の燃費データ不正問題により、三菱、OEMとはいえ共同開発した日産の軽自動車の販売減もあり、さらに厳しさを増しそうだ。そして最大手のスズキの燃費不正も影を落としている。
結果として軽自動車は、5月期は三菱が75%減、日産が76.8%減、スズキが15.4%減で17カ月連続減となった。
スズキは軽自動車の増税による落ち込みを視野にいれ、イグニス、バレーノと2車種のコンパクトカーを送り出し、今後予想される軽自動車脱却組の受け皿を用意したが、この動きに追随する動きがありそうだ。しかも、軽自動車マーケットに対抗する次世代の新しいコンパクトカーのセグメントを創出するというビッグプロジェクトとして。
それがどうやら日産主導らしい。ある日産関係者の証言によれば、三菱を傘下に収めることで小さな車作りが生産設備を含め日本国内で用意できるようになった。日産のグローバル戦略は、それぞれのエリアに適した「売れる車」を作ることだが、現在、日本にはそれがない。そのために日本を捨てたと言われるが、次は三菱の生産設備を使い、日本マーケットに合致したコンパクトカーを生み出すというのだ。しかも、1台ではなく、新しいジャンルを形成できる複数車種を開発することになるという。
それが新800cc車構想。実際には800~1000ccクラスとなるだろうが、車種に応じて計画されていくになると思われこの新しい動きは始まったばかり。今後、どうなるかは現時点では読めないが、決して夢物語ではない。
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エンジンは三菱製かルノー製の3気筒
1955年、戦後の国内産業の復興と国民生活の発展のための国民車構想があった。55年にはスズキがスズライトを、58年にスバルが有名な360を発表。当時の通商産業省資(現・経済産業省)が主導した国民車構想はこうして軽自動車がベースとなり大きく成長してきた。
60年代に入り、軽自動車よりも大きい「新国民車」と言える低価格の大衆車時代に入る。よく知られている700ccのパブリカや、軽自動車の排気量を上げたスバル450やホンダN600などもあった。しかし、大衆車は年々拡大し、豪華で装備の充実したモデルに進化。排気量も1.5~1.8Lが主流となり現代に至るのだが、ヨーロッパから始まったダウンサイジングの波はまた車を大きく変えようとしている。
日本にもかつてダウンサイジングの動きがあった。バブル絶頂期ともいえる91年の東京モーターショーにトヨタが提案した軽量コンパクトなAXV-Ⅳと呼ばれるコンセプトカーがそれだが、軽量、シンプルな車作りを目指した804cモデルだったが、現実味が乏しかった。現在は車に搭載される装備、安全のためボディなど軽量化には厳しい環境だが、日産は三菱の生産設備と開発チームを手に入れることで、新たなセグメントを狙うわけだろう。
それが800~1000ccクラス。ヨーロッパ規格で言えばAセグメントのサイズ感だが、日本での新しいマーケットを狙うとなると、日本の軽自動車規格の全幅1480mmよりも150mmから200mm程度幅が広く、1600mm程度。全長も3400mmよりも100~200mm長い3600mmくらいの大きさだろう。
エンジンは軽自動車用の3気筒のサイズアップで対応するのか、ルノートゥインゴに使われるルノー製の900ccの3気筒エンジンを使うのかは、当然現時点では決まっていない。傘下の三菱製3B20型3気筒は800cc化することで、60ps程度は可能だろうし、重くなるボディに合わせターボ化することで、80ps程度も可能なはず。
トゥインゴ用の898cc3気筒ターボは90psを発生する。実はこのルノーの3気筒エンジンをスケールダウンし800ccとした「日産」モデルが存在していて、インド生産のダットサン「redi-GO」と呼ばれる新興国向けのコンパクトカーに積まれている。ノンターボ仕様だが、日産には800ccカー構想に対応するエンジンがすぐにでも用意できるのだ。
プラットフォームも三菱の生産システムを使う関係上、現行のeKワゴン/デイズ用を使うのか、ルノーとのアライアンスによるコモン・モジュール・ファミリー(CMF-A)を使うのか、今後決められていくのかもしれない。
日本の自動車を元気にする新しい流れ
そうしたスキームの中で生まれてくるのはどんな車なのか?前出の日産関係者は、日本に軽自動車に代わるマーケットを作るとすれば、今売られている軽自動車の全ジャンルに手をつける可能性もあると指摘する。
例えば、スポーツカー。ホンダはS660が高い評価を受けているが、場合によってはコペンと同様、FFfのプラットフォームをそのまま短縮して安価な800ccのスポーツが生まれるかもしれないし、スズキハスラーで大人気となったクロスオーバー型のSUVのようなモデルを投入してくる可能性もある。
もちろん、ベーシックモデルはパッソ/ブーン程度、コンパクトミニバンはスズキのソリオ程度のサイズ感になるだろうが、800ccクラスで軽自動車にあるジャンルが全て出揃うとなると、これからの低炭素社会に向けて、新たなマーケットが形成される可能性は十分ある。
低炭素社会と言っても、具体的にどれだけの燃費を誇るのかは今のところ不明。しかし、2Lクラスのミニバンや1.5L NAモデルよりはCO2の排出量は当然少なくなる。800ccと言っても、実質的なライバルはリッターカーや1.2Lクラスまでのコンパクトカーになるはず。
軽自動車のように0.1km/L刻みの燃費競争に巻き込まれることはないが、それでもリッターカークラスの3気筒ターボやハイブリッドなどの新たなライバルが出現する。日本というマーケットは全てにおいて厳しい競争が待ち受けるが、そろそろこうした新しい流れが起これば、また新たな消費が起こり、日本の自動車産業が活性化する原動力ともなり得る構想だ。
まだ全容は判明していないが、この構想が実現すれば、日本の自動車産業が元気になるのは間違いない。計画のスタートにはもう少し時間が必要だろうが、自動車税も800ccで新しい枠を年間2万円くらいにすれば、新しいマーケットとして大きく広がる可能性はある。