2023年10月、トヨタは都内で記者会見を行い、新たな販売物流統合管理システム「J-SLIM」(ジェイ・スリム/Japan-Sales Logistics Integrated Management system)を、年内にもトヨタ全車種全店舗へ導入する計画を発表しました。このシステムは、全トヨタ車の納期をリアルタイムで可視化し、納車期間の短縮を実現する画期的な仕組みとされています。
これはおれのリベンジなんだ
記者会見に出席したトヨタ自動車の友山茂樹国内販売事業本部本部長は、トヨタの会長である豊田章男から直接「J-SLIM」の開発と早期導入を依頼された経緯を明らかにしました。章男会長はこの依頼について「これはおれのリベンジなんだ」と語ったとされています。
30年前、章男会長は「自動車製造メーカーはただたくさんクルマを作り、それを販売会社に売る」という既存の流通仕組みに疑問を投げかけ、改善提案を行いました。当時、販売会社は需要の高い車種に大量の受注を入れ、製造メーカーは受注の優先順位をつける手段を持たなかったため、納期に関する混乱が生じ、納車日が不確定性を帯びる状況が続いていました。
この提案は当時受け入れられませんでしたが、時が経つにつれて、車種や部品の多様化、世界的な工場の停止や半導体供給の不安定性などが物流に大きな影響を及ぼしました。納期の長期化や不確定性が横行し、ユーザーや販売店にとって大きな課題となりました。
こうした課題のもと、友山氏は「J-SLIM」の開発に着手しました。このシステムはメーカーと販売店がリアルタイムで注文と納期を共有できるため、商品の偏りが減少し、納期が透明化します。
「全車種の納期が短縮」というわけではない
「J-SLIM」の特徴は、メーカーと販売店の双方が注文と納期をリアルタイムで把握できることです。部品の納品管理も透明になり、改良や価格変更に関する情報も共有されるため、納期の不確定性が大幅に減少します。
トヨタは「J-SLIM」の導入により、平均納期を短縮しています。このシステムにより、商品が滞留することなくスムーズに納車される効果が生まれており、ユーザーと販売店の待ち時間が大幅に削減されています。
しかし、一部の高人気車種については、需要と供給の格差がまだ埋まっておらず、長納期化の問題は解決されていません。需要と供給のバランス、部品供給、組み立てラインの課題が依然として存在しています。
「J-SLIM」の導入により、自動車産業における物流の仕組みが大きく変わりました。トヨタはこれを通じて競争力を向上させ、他の自動車メーカーにも刷新の機会を提供しています。一方で、ユーザーにとっては、長納期化に対処する新しい方法を模索する時代が訪れています。
あとがき
トヨタの「J-SLIM」が物流業界に革命をもたらしています。納期の透明化と短縮により、ユーザーと販売店は待ち望んでいた変化を受け入れています。ただし、特定の高人気車種に対する需要と供給の格差はまだ埋まっておらず、長納期化の問題は根本的に解決されていません。新しい時代の「こだわりのクルマの持ち方」が求められています。