3LV6ディーゼルも不正が発覚したが、VWは一切否定!
次々と新しい事実が明らかVWの排気ガス不正問題。11月2日、「アメリカで市販している3L V6ディーゼル(TDI)も不正なディフィート・デバイス(無効化機能)を使っているとEPA(米国政府環境局)とCARB(カリフォルニア州大気汚染防止局)は発表した。同エンジンを搭載するVW、アウディ、ポルシェに対して法令違反だと指摘。これに関してVWグループは「解釈の違いであり、法令違反ではない」と反論した。
もう一つの事実は11月3日、欧州で市販しているディーゼルとガソリン車の公表されているCO2排出量、燃費に不正があったとVWは自ら告白した。さらに13日には「VW乗用車ブランドの最新16年モデル12車種が対象になる」と発表した。
CO2不正が発覚した主な2016年モデル
ガソリンエンジン
・VWポロ:1L直3ターボ(95ps/16.3kgm)
・VWジェッタ: 1.2L直4ターボ(105ps /17.9kgm)
・VWジェッタ: 1.4L直4ターボ(125ps/20.4kgm)
・VWゴルフ:1.4L直4ターボACT(150ps/25.5kgm)
・VWゴルフGTI:2L直4ターボ(220ps/35.7kgm)
・VWゴルフR:2L直4ターボ(300ps/38.8kgm)
・VWパサートヴァリアント:1.4L直4ターボ ACT(150ps / 25.5kgm)
・VWパサートヴァリアント:2L直4ターボ(220ps/35.7kgm)
ディーゼルエンジン
・VWポロ:1.4L直4ディーゼルターボ(75ps/21.4kgm)
・VWポロ:1.4L直4ディーゼルターボ(90ps/23.5kgm)
・VWポロ:1.4L直4ディーゼルターボ(105ps/25.5kgm)
・VWティグアン:2L直4ディーゼルターボ(150ps/34.7kgm)
・VWティグアン:2L直4ディーゼルターボ(184ps/38.8kgm)
・VWシロッコ:2L直4ディーゼルターボ(184ps/38.8kgm)
・VWゴルフカブリオレ:2L直4ディーゼルターボ(150ps/34.7kgm)
・VWゴルフカブリオレ:2L直4ディーゼルターボ(110ps/25.5kgm)
・VWゴルフ:1.6L直4ディーゼルターボ(90ps/23.5kgm)
・VWゴルフ:1.6L直4ディーゼルターボ(110ps/25.5kgm)
・VWゴルフ:2L直4ディーゼルターボ(150ps/35.7kgm)
・VWゴルフヴァリアント:1.4L直4ディーゼルターボ(90ps/23.5kgm)
・VWゴルフヴァリアント:1.6L直4ディーゼルターボ(110ps/25.5kgm)
・VWゴルフヴァリアント:2L直4ディーゼルターボ(184ps/38.8kgm)
・VWトゥーラン:2L直4ディーゼルターボ(150ps/34.7kgm)
・VW CC:2L直4ディーゼルターボ(184ps/38.8kgm)
・VWパサート:1.6L直4ディーゼルターボ(120ps/25.5kgm)
・VWパサート:2L直4ディーゼルターボ(150ps/34.7kgm)
・VWパサートヴァリアント:1.6L直4ディーゼルターボ(120ps/25.5kgm)
・VWパサートヴァリアント:2L直4ディーゼルターボ(150ps/34.7kgm)
・VWパサートヴァリアント:2L直4ディーゼルツインターボ(239ps /51.0kgm)
・アウディA1&スポーツバック:1.4L直4ディーゼルターボ(90ps/23.5kgm)
・アウディA1&スポーツバッグ:1.6L直4ディーゼルターボ(115ps/25.5kgm)
本当に法令違反なのか?
今までアメリカでは2Lディーゼルが問題だったが、今回は3L V6ディーゼルが問題視されている。EPAが発表した内容はアメリカで市販されているアウディ製3L V6TDIを搭載するVWトアレグ、ポルシェカイエン、アウディQ5/A6/A7/A8が違法の疑いがあると指摘している。
この内容は、排ガス試験を検知すると触媒の温度を高めるために、温度をコントロールする制御に切り替わるというもの。具体的にはEGRや点火時期を変えることで、排ガス温度を制御できる。
コールドスタートから排ガスを抑制しなければならないので、早期に触媒温度を高めるための手法だ。EPAが指摘したのは、このシステムが排ガス試験のサイクルが終了した1秒後に元のモードに戻るようになっている点だ。これがディフィート・デバイスに相当し、法令違反だと主張している。
EPAの見解ではディフィート・デバイスの定義に関しては「排ガス試験を不当に回避するような特別なプログラムを使用する場合」に適用されるが、ある日本メーカーのOBエンジニアの話では、ささいなことでも説明責任を問われるのがアメリカのルールだそうだ。
これに対してVWグループは、3L TDIには排出ガス特性を変更するようなソフトウェアは搭載していないと主張するが、EPAの調査には全面的に協力すると発表している。
発表された記事などから推測すると、この事例はただ単にエンジンがコールドであることを検知していただけではないだろうか。ファーストサイクル終了1秒後に通常モードに戻るとあるが、一般的にはエンジンの暖気状態を検知し、水温などのデータから通常モードに戻すほうが、簡単ではないだろうか。
前出のエンジニアは起動直後に触媒性能が上がらない時は排ガス温度を上げるために点火時期を変えたり、EGRを作動させないという手法はガソリン車でも常識的に行われていたそうだ。EPAのレポートからは正確には判断できないが「EPA指定のテストを検知」という表現と「テストモード最初のサイクル終了1秒後」という設定が合理性を欠くのではないか。
つまりこのディーゼルエンジンの排ガス浄化性能に悪意があるとは考えにくいが、説明責任に関してはドイツは全体的に甘かったと言えそうだ。
しかし、VWグループは問題がクリアになるまで3L V6ディーゼル車のアメリカでの販売は認定中古車も含めて中止する方針を打ち出している。
ガソリンエンジンCO2不正をVWが内部調査の末公表
アメリカで発覚したVWのディーゼル車不正プログラムの問題から、次に発覚したのがCO2排出量、燃費データの偽造であった。その事実は11月3日、VWの内部調査によって明らかにされた。問題となったのは約80万台のVWグループの車であり、そのほとんどがディーゼル車だが、一部ガソリン車も含まれていることが判明した。
約80万台のうち約43万台が16年モデルの新型車で、VWゴルフ、ポロなどが約28万台、シュコダ約8万台、セアト約3万台、アウディ約1.5万台。
さらに11月13日にはVWグループが明らかにした車種のリストが公開されたが、それを見て驚いたのは日本でも馴染み深いガソリン車の最新モデルが含まれていたのである。それにしても最近まで燃費データをごまかすなど、VWの開発部門では不正が常習化していたことが明らかになった。
燃費データを偽造したガソリン車の内訳は、ポロ、ゴルフ、ゴルフGTI、ゴルフR、パサートヴァリアントと、ほぼすべてのVW車であり、それらのエンジンはポロが搭載する1L3気筒ターボTSIのブルーモーション(95ps)を筆頭に、ジェッタの1.2L TSI(105ps)&1.4L TSI(125ps)、ゴルフの1.4L TSI(150ps)、2L直4ターボTSIのゴルフGTI(220ps)とゴルフR(300ps)などが該当。
ポロやゴルフ、パサートの日本仕様は該当しない
気になるのは日本仕様もこれに該当するのかだが、VWグループジャパンが11月6日及び16日に「日本仕様の車両に該当する車種はありません」と発表した。ただ、対象なしの根拠、理由が発表されていないのはもどかしい。
公表された車種には多くのディーゼル車がリストアップされているが、ディーゼルの場合はNOxを低減するために燃焼温度などを下げると燃費に悪影響があることは知られているし、ユーロ6ではNOxの規制がきびしくなり、燃費に影響することも考えられるので、ごまかしたことは理解できる。ガソリン車はもともと三元触媒が使えるので、NOxとのトレードオフの影響はほとんどないはず。
何もインチキなどしなくても十分に走りと燃費が良いと評判のVW車なのに、何故ごまかしたのだろうか。ドイツのメディアは、VWの元CEOマーティン・ヴィンターコルン氏が掲げたCO2削減目標値があまりにも厳しいかったため、不正に燃費データをしたことを認めたようだ。またドイツのオートビルト紙はVWの燃費ごまかしは13年から15年春まで行われていたと報じた。
元CEOのマーティン・ヴィンターコルン氏は、12年に「CO2排出量を15年までに30%削減」と国際公約している。この目標達成が困難だったため、偽装が始まったのだ。
実際の手口はタイヤの空気圧を高めたり、エンジンオイルを抵抗の少ないものを使ったりしていたという報道もあるが、VWだけでなく、アウディ、シュコダ、セアトに広がっているので、全員がそれらの方法を用いたとは考えにくい。具体的にどのようなトリックを使ったのか、EU委員会はVWに対して事実を公表する期限を11月20日と定めている。
はたしてどのくらい燃費をごまかしていたのか気になるが、その差は最大で18%、平均では10~15%前後だとVWは述べている。ドイツ政府への認可は自主的な試験データを提出するだけなので、不正が発覚するとは思っていなかったとVWの担当車は告白している。
これアメリカや欧州で起きたディーゼル車の排ガス問題(NOx)よりもむしろCO2排出量をごまかしたことの方が、問題は深刻だと感じる。CO2はまさに国際的な条約であり、京都議定書以降、欧州は率先して温室ガス削減に努力してきたからだ。
運輸部門のど真ん中にいるのがVWグループであり、公共的な利益となる地球環境よりも、会社のトップの顔をうかがって仕事をしていた企業文化に問題がありそうだ。
メーカー公表値とリアルワールドのとの乖離を少なくすることが重要
燃費や排ガスの問題となると、リアルワールドとカタログデータとの乖離が問題視される。排ガスや燃費の規制値がますます厳しくなると、今回のVWのような不正問題が発生しやすい状況になるかもしれないが、乖離問題とは分けて考える必要がある。
乖離は法律的には合法なのである。欧州で活躍する環境団体、トランスポート&エンバイロメント(T&E)は実際の走行環境で走る車がカタログに記載されるCO2排出量・燃費とどれくらい乖離しているか調査している。最近発表した数値では最大で40~50%も乖離(悪い方向で)している車が存在していると指摘している。
カタログ燃費と実用燃費の乖離は日本でも話題となる。ネットの普及で実用燃費を公開するサイトもあるが、だいたい7掛け、EVなどは5掛けという話もあるくらいだ。なるべく乖離が少ない車が理想的だが、カタログ燃費で減税などのインセンティブが与えられる政策では、自動車メーカーにとってカタログ燃費をよくすることは車を売るための重要な手段なのである。
考えてみれば、2000年以降あたりから、カタログ燃費と実燃費の乖離は大きくなってきている。燃費を良くするためにはあらゆることが実行された。
なかでもひどいのは、雨の性能が悪化することを承知で、燃費の良いタイヤを装着するケースが目立っている。タイヤの法的な基準は1.6mmあればよいという程度。これでは燃費を優先するタイヤを選びたくなる。自動車メーカーのトップも燃費という数値を気にする。燃費は数値で示せるし、経営者は雨の安全性など気にしない。
こうして、2000年以降はハイブリッドやダウンサイジングターボの出現でカタログ燃費の理不尽な競争が始まっていた。日本と欧州とアメリカでは走行モードも異なるので同じ車でも各国での燃費はまちまちだ。一番実燃費に近いのがEPAが公表する燃費だ。アメリカでは07年頃からカタログ燃費との乖離が問題視され、EPAは、より実燃費に近い測定法を実践した。その結果、EPAが公表する燃費は実燃費に最も近い。乖離が大きいのは日本と欧州。そこで国際的な非営利団体のクリーン交通委員会(ICCT)は欧州の環境団体T&Eと協力してカタログ燃費と実燃費の乖離を調査している。T&Eが発表した「マインドギャップ2015」では欧州で市販される最新モデルのギャップを示している。乖離が少ないのは、ルノートゥインゴやトヨタオーリス、プジョー208。
マツダのエンジン開発部門を指揮する人見光夫さんは「ダウンサイジングターボは、モード燃費は良くても、条件が外れると一気に燃費が悪くなる」と主張。いわゆる燃費のロバスト性の問題を指摘する。17年から施行されるWLTP(世界燃費基準)が実行されると乖離は解決すると考えられているが、T&Eの専門家は「WLTPで一旦は乖離が減るが、すぐにまたピンポイント技術が横行し、2025年には最悪の状態となるだろう」と指摘。
T&Eは2000年頃から乖離の問題を調査してきている。01年は規制値の市場平均は170g/km(km走行のCO2排出量)と燃費規制はあまりきびしくなかったが、実燃費との乖離も5~10%に収まっていた。
ところが14年のデータではCO2の市場平均は125g/kmと少なくなってきているが、実燃費との乖離は25~50%と悪化している。これではどんなに規制を厳しくしても、実燃費が悪化するなら意味がないではないか。そこでEUの環境委員会は今回の不正問題や乖離の問題を解決するために、新しい基準を策定している。
EU委員会が提案していた新しい排気ガス規制は17年9月より実際の道路上での排気ガス計測を実施することになった。これはRDE(リアルドライビング・エミッション)といわれる測定法だ。そこで17年9月から20年1月までは、実際の道路上で許容されるNOx排出量は規制値(80mg/km)の210%まで認めるが、20年1月以降は150%までと厳しく規制する。
この案はEUの自動車に関するEUの技術委員会で承認された。
日本でも様々な動きが始まった
一方、日本では10月28日に国交省・環境省が学識経験者によるディーゼルに対応するための第1回検討会を開いた。台上試験にくわえ、路上での走行試験を導入する方向で検査方法を見直し、来年4月に中間報告を取りまとめるという。
また11月13日の閣議後会見で石井啓一国土交通相は、「国内で販売されているディーゼル乗用車のうち8車種を選定し、実走行の排ガスのサンプリング調査などを今年度中に実施することにしており、この調査結果や各国の対応状況を踏まえ、必要な対策を講じていきたい」と述べた。
今後欧州ではPHEVが増えるかもしれないが、PHEVの燃費の測り方ではバッテリーに充電したCO2は換算しない。しかし、現実にユーザーが充電しないでPHEVを使うと、燃費はかえって悪化する。ここにもカタログ燃費と実燃費が乖離するバグが存在することになる。
VWだけではないかもしれないが、規制に対するデータ改ざんなどの闇は深い。
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