ランボルギーニとの提携から生まれたR8
アウディのスーパースポーツであるあるR8。そのモデルを知るうえで、切っても切り離せないのが同門であるランボルギーニとの関係だ。
同社が資本提携によるVWグループ傘下となったのは99年のこと。実質的な株主であるアウディは、アルミスペースフレームや4WDという十八番のシャシーテクノロジーをランボルギーニに供給し、V10ユニットを搭載したフェラーリV8モデルの対抗馬、ガヤルドを03年のジュネーブショーで発表した。
そして同年のフランクフルトショーで、アウディはミドルシップのコンセプトモデル「ル・マン・クワトロ」を披露。ここでLMPクラスでの耐久レース参戦に伴うイメージアップと併せてささやかれたのは、ランボルギーニとの関係を活かしてアウディミドシップモデルを市販するのではないかという噂だった。
そこから3年後の06年。初代R8はル・マン・クワトロさながらの前衛的なフォルムをまとってデビュー。メカニズムの基本は下馬評通りガヤルドとの共通項が多く見受けられるも、当初はV8ユニットを搭載、そして90mm長いホイールベースを有するなどアウディの見識が端々に見受けられるモデルだった。
その後、初代R8はV10ユニットを搭載してバリエーションを強化、FIA-GT3クラスのレースマシンとしてもカスタマーに供給されるなど、アウディのスポーツイメージを幅広く伝えるフラッグシップとして貢献してきた。
10年目にして2代目へとフルモデルチェンジしたR8のアーキテクチャーは、やはり基礎をランボルギーニ・ガヤルドの後継であるウラカンと共通にしている。寸法的に見れば初代より全幅が35mm拡大するも、全長と全高は若干ながら小さくなるなど、スポーツモデルとしての純度を高めてきた。ホイールベースは初代と同一だが、ウラカンとの差は30mm。数字から見る運動性能の差は縮んだように伺える。そしてアルミスペースフレームは構造材の13%をカーボンに置き換えるなどして、骨格部全体の重量は200kgまで減量されている。
新型R8はエンジン5.2L、V10に一本化。標準モデルが540ps、上位モデルの「プラス」はウラカンと同じ610psを発揮し、ミッションは7速DCTのみ。初代R8の6速MTは当代随一のフィーリングだっただけに残念だが、3.2秒という0~100km/h加速や330km/hという最高速(ともにプラス)を聞くに、3ペダルでのドライブに効率性は望めないのも確かだ。さらに新型R8では、アイドリングストップやコースティング、低負荷時の片バンク気筒休止など、燃費向上のためにさまざまな策が講じられている。
洗練度を大きく増しライバルに伍す存在に
ドライブトレーンでの興味深い変化は、前軸部に置かれる4WDのセンターデフが従来のビスカス式から電子制御の油圧多板クラッチ式に置き換わったことだろう。これにより、前後輪いずれかへの100%完全駆動配分も可能となり、その配分数値は運転状況やドライブモードの選択で常時変化することになった。
初代に対しての新型R8の一番の進化はどこか?をあげれば、それは精度感だと思う。特にエンジンやドライブトレーン、サスなど摺動部のフリクションの低さ、それがもたらす転がり感の滑らかさや音振の少なさは、同じ4WDのライバルと思しき911ターボやNSXあたりに比べても勝るとも劣らない。
今回、R8はこの変化に加えてアクセルやブレーキ操作での車体の沈みや伸び、コーナリング時のダイアゴナルなロールなど、車両挙動の情報量がグンと豊かになった。AV機器的に言うなら、ノイズがグンと減った一方で解像度が大きく向上したという感じだろうか。同時に舵やペダル類の操作力自体も洗練され、操作量に対する応答性もリニアになった。
これらの点、実は兄弟車ともいえるウラカンもガヤルドから大きく進化したところだが、こちらはランボルギーニ的な猛々しさを敢えて盛り込むべく、音や振動の荒っぽい要素は意図して活かしている。
こういう類の車の運動性能的なリファレンスとしてR8は911ターボ系に比するところにいる。それほどクリーンでニュートラルだ。一方でウラカンはファンであることが第一義。先日追加された廉価モデル、LP580-2などはわざわざ4WDを後輪駆動にしてまで回頭性を高めているのだから、これはもう確信犯、アウディには絶対出来ない所業である。
NSXは市販スペックに乗れたわけではないので断言はできないが、コストパフォーマンスではR8や911ターボに食らいつくところにいることは間違いないだろう。が、操作に対する姿勢変化の饒舌さを筆頭にした豊富なフィードバックという面に見劣りがあるのも確かだ。言い換えればドライバーと車との対話感がうんと濃密になったのが、新型R8の最も嬉しい変化ではないだろうか。