2005年にGMとの提携を解消し、トヨタと資本提携を組んだスバル。トヨタは2008年に増資し、現在は富士重工株の16.5%を持つ筆頭株主となっている。
トヨタとの提携で生まれた車といえば、2012年発売の86/BRZが有名だが、ここ1~2年はトヨタとのコラボで具体的に何がおこなわれているのか、あまり情報が入ってこない。
実は、スバルとトヨタの協業は時系列で3段階に分かれている。05~08年がフェーズ1の「相互補完」(スバルの北米工場でのカムリの受託生産、技術者交流)。08~14年がフェーズ2の「新たな価値創造」(86/BRZ共同開発、トヨタ、ダイハツからのOEM供給)。そして、14~20年がフェーズ3の「さらなるシナジー創出」となり、環境分野(電動化など)を軸に検討中とされている。
しかし、北米工場でのカムリの受託生産は今年末に終わる。次期86/BRZの計画は進んでいないし、これをベースにしたスポーツセダン開発の計画も立ち消えになった。技術者の交流は続いているが、当初の予定どおりには両社の提携関係は進んでいないように見える。
さらに言うなら、両社の新世代シャシー、トヨタのTNGAとスバルのSGPもまったく別々に開発したし、自動運転、自動ブレーキの分野でも、これまで両社が技術開発で協力し合ったことはないという。
もちろん、協業の成果も上がっている。トヨタの86はスバルの水平対向エンジンでなければ作れなかったし、スバルのXVハイブリッドは、トヨタとの技術交流がなければ作れなかった。XVのハイブリッドシステムはスバルオリジナルの技術だが、トヨタが長年培ってきたノウハウを相当つめこんでいるのは周知の事実。また、カムリの受託生産をすることで「トヨタ流のコスト管理術を深く学ぶことができた」とスバルの関係者は言う。
トヨタがスバルと資本提携を結んだ05年に比べ、現在のスバルの株価は約6.5倍になっており、配当金は何と16倍。筆頭株主のトヨタにとっては「利益を生んでくれるありがたい提携先」ということになるが、コスト管理も含めた車づくりという点においては、スバルの方が協業の成果を多く受け取っているように見える。
「技術者同士の交流で、トヨタ側も表には出てこないメリットを受け取っているはず」とスバルの関係者は言うし、また、トヨタの豊田章男社長もそういう刺激を求めてスバルやマツダ、BMWなどと提携関係を築いているフシもあるが、今後、協業の軸となる電動化技術ではトヨタがスバルの指導役になることは確実。ますます提携によって受け取る果実の格差は広がっていきそうだ。
05年、トヨタと資本提携を結んだ際、スバルの吉永社長(当時戦略本部長)は、当時のトヨタ渡辺社長から「トヨタにはならないで下さい」と言われたという。吉永社長はそれをスバルの独自性を大事にして欲しいという意味に受け取った。
だから、スバルが今後作るHVもPHVも、トヨタの電動化技術の知見を活かしながらも独自開発にこだわることはやめない。そもそも水平対向エンジン+シンメトリカルAWDを続ける限り、トヨタのハイブリッドシステムをそのまま移植することはできない。とりもなおさず、それが「独自性」ということなのだ。
一見、効率が悪そうにも見える両社の提携関係だが、実は、これこそ互いが求め合っている関係とも言える。フェーズ3の「さらなるシナジーの創出期」に入った今、両社のクルマ作りに互いがどう影響を与え合うのか、その動きに注目していきたい。